【あたしンち】藤野という男
こんにちは。4月頃からAmazon Primeであたしンちのアニメを狂ったように観続けている私です。
もともと実家に漫画がありそれを読んでいたのですが、それからしばらく経った今アニメを見返すと、覚えているエピソードや忘れていたエピソードが盛り沢山でとても楽しいのです。脳の奥底にある記憶を呼び覚ましてくれます。
そして何より、あたしンちはシンプルな魅力がいっぱいなんですよね。育児エッセイとは少し違った、日本の一般的な中流家庭の日常、そしてその家族を取り巻く環境を丁寧に、且つ共感を得ることができるように作られています。
さらに言えば、私の中であたしンちをあたしンちたらしめている要素は「要素ごとに描き分けられたキャラクター」にあると思います。似たような登場人物がいないのは当たり前ですが、性格だけでなく見た目も丁寧に作られているんです。シンプルで分かりやすい、これが一番ですね。
とりわけ私が好きなのは、立花家次男のユズヒコが通う中学校のクラスメイト、藤野です。
かわいい
ユズヒコの1番の友人でしょうか。いつも一緒にいるイメージです。
藤野は無邪気で明るく、あまり何も考えてない天然な感じのキャラです。
彼の出てくる素敵エピソードを探せば枚挙に暇がありませんが、私が特に好きな、藤野とユズヒコの関係性が分かる話、そして彼の家庭環境が描かれる話の2つを紹介したいと思います。
なんか突然あたしンちについて語りたくなったのです。
第57話「ユズ、男同士」
寝癖がうまく整わず、いつもの時間を過ぎて家を飛び出すユズヒコ。
1時間目の数学を担当する林先生は遅刻に厳しいので急ぐユズですが、歩道橋の階段を駆け上がっていると後ろから聞き覚えのある声が。
藤野だ!どうやら彼も遅刻しているよう。
2人は諦めて歩いて登校。廊下でふざけていると
数学の林先生に怒られてしまいます。
廊下に立っている2人。女子生徒に見られて恥ずかしがるユズヒコと、嬉しそうに小さく手を振る藤野。2人の対比が描かれています。
学生の頃の先生に怒られた経験って、そのときは辛いですが、あとから思い出すと面白かったりしますよね。
2人が空を見上げると
綺麗な空!怒られて廊下に立っている2人ですが、どことなく楽しそうな表情です。しかし…
藤野が急に鼻血を出してしまいます。
慌ててトイレからトイレットペーパーを持ってくるユズ。優しいですね。
応急処置。このあとはしゃいでまた林先生に怒られました。
次の時間は英語。鼻を摘んで上を向いている藤野を見つけた唐沢先生は
「学校で何興奮してんだ?」「何かいいもんでも見たか?」とイジります。
皆に笑われる藤野。
「そんなニキビ面で鼻血ブーなんて露骨だな」「鼻の下伸ばさずに成績伸ばせな」唐沢は立て続けに藤野をイジり倒します。
「保健室行ってもいいですか」と聞く藤野の表情は暗く、沈んでいます。
友人を笑い者にされたユズヒコは面白くありません。付き添いを申し出て教室を出た藤野のあとを追います。
廊下を歩いていると、教室から「なんだあいつら怪しいな」と唐沢の声。2人は無視して歩きます。
「あいつ、くだんねーな」ユズヒコは言います。
「ん」とだけ答える藤野。上を向いているのは鼻血が出ているからなのか、涙を堪えているからなのか。鼻を啜る音がします。
「あいつ、ほんとくだんねーよ!」再びユズヒコは言います。
暗い階段に光が差し込んでいます。
「ユズピ」藤野がユズヒコに声をかけます。ユズが反応すると…
藤野は鼻血をユズの鼻になすりつけるのでした。
もういつも通りの藤野のようです。
2人はまた登校中のようにふざけ合いながら階段を降り、保健室へ向かうのでした。
私があたしンちで一番好きなエピソードです。男同士の友情、藤野が珍しく見せる悲しい表情、何より、遅刻や授業中に静かな廊下を歩いたりする光景が、少し悪いことをしているような、そういう気持ちになったりしていた昔の自分の記憶を刺激するんですよね。
寂しげな藤野を思って彼についていくユズヒコの男らしさ、川島が惚れるのも分かります。
それにしても唐沢はひどいですね。人を馬鹿にして取る笑いはあまり好きではありません。ましてや教師が生徒にそれをするなんて言語道断です。先生に言われたひどい言葉なんて、生徒は一生忘れませんからね。
2人の友情がより一層強くなった、そんなエピソードでした。見るたび泣きそうになります。
もうひとつ
第334話「ユズ、藤野の家へ行くっ」
家でパンを食べていたら母に「これも食べちゃって」と煮物を出されたユズヒコ。食い合わせ悪すぎます。
その話を給食の時間に藤野とナスオに話すと大ウケ。
藤野は過去に立花家に行ったことがある(219話「藤野、遊びにくる」)ため、そこで見た立花家の面白エピソードを話し出し、ユズヒコを怒らせます。
放課後、ユズが1人で下校していたら藤野が来てお昼のことを謝罪。2人は一緒に下校します。
途中通ったコンビニで藤野がお弁当を買いたいと言い出します。
自分と弟たちの分3つのお弁当を買う藤野。
親が遅いんだな、とユズヒコは思います。
それならおまえんち行かせて、とユズは提案し、藤野の家に行くことになりました。
暗くなってきましたね。
藤野の家だと言う4階の奥の家は真っ暗。弟がいるはずなのに。
「ただ〜いま」藤野は真っ暗な部屋に言います。
「なんだ、誰もいねーじゃん」とユズヒコは言いますが…
暗い部屋の奥に弟が1人ポツンといました。
電気をつけるとビックリ。部屋がとても散らかっています。
ユズもビックリ。
上の弟は塾に行っているようで家にはいません。
いつもコンビニ弁当を食べているわけではなく、普段は母親が朝作り置きをしてくれているよう。今日はたまたまだと藤野は言います。
部屋はとても寒いです。藤野がストーブを点けます。「あいつらにはストーブいじるなっていつも言ってんだ。危ねえから」藤野は言います。
「みかん食うか?」と藤野が言い、段ボール箱から取り出したみかんは…
カビが生えていました。
「ちぇ、はずれか〜」と言うともう一度箱からみかんを取り出します。今度は普通のみかんでした。
「すげえな、おまえんち」ユズは言います。「なんかスゲー!て感じだよ」
「ユズピんちには負けるぜ、全然敵わねえよ」と藤野に言い返されます。
「嬉しくねえ……てかうちってそんなにおかしいのか!?」ユズヒコは叫びます。
友達の家ってなんか変な感じしますよね。自分の家と明らかに違うんですから。
ユズが藤野の家に行ったときは藤野と下の弟しか居らず、両親の姿を見ることはできませんでした。
弟が1人のときは電気が消えており、部屋は散らかっている。家も狭いのでしょうか、リビングに2つの勉強机があります。藤野と上の弟のものなのでしょう。彼らには自分の部屋というものがありません。
なんだか怪しい匂いがしてしまいます。親はちゃんと育児を行なっているのでしょうか。しかし、いつもは母がご飯を作ってくれてる、上の弟が塾に通っている、という点からその疑問は解消されます。ネグレクトではないのでしょう。
そうなると、汚い部屋は母親が片付けが苦手であり、電気が消えていたのは単なる節電であると予想できます。あまり裕福な家庭ではないのでしょう。立花家の母は「うちはビンボーだから」と繰り返し叫びますが、恐らくそれより貧しい家庭なのでしょう。
普段我々が見ているのは立花家を舞台とした「あたしンち」ですが、藤野にも当然「あたしンち」があり、そこで日常が繰り広げられているのです。部屋の汚さも寒い部屋も藤野にとっては日常で、ユズヒコを家に上げる際もそれを気にする素振りは見せません。
この家庭で藤野は真っ当に成長していますが、もしこの家の子どもがユズやみかんだったらどうなっていたでしょう。これは完全な邪推ですが、藤野が腐った「みかん」を取り出す場面で、何か暗喩めいたものすら感じ取ってしまいます。
それぞれの家庭にそれぞれ暮らしており、それぞれが成長していきます。
ユズヒコは純粋に、友人の家であること、家に帰っても親がいないこと(立花家の母は専業主婦)などから「なんかすげー」と言っているようですが、これが高校生、はたまた大学生のユズヒコだったら、藤野の家に対する感想もまた変わってくるのでしょうか。
人の家庭の事情とは難しいものです。親友や恋人でさえも踏み入ることのできない領域でさえあります。藤野家に確かにある日常を知ることはできません。どの家が良い、悪いかなんて簡単に言うことはできないのです。
この2つのエピソードを見れば、藤野のことを少しだけ分かることができます。どちらも大好きなお話です。
私は藤野が大好きです。彼は無邪気で可愛く、中学生のあどけなさを存分に残しています。彼が今後も真っ当に成長していくことを祈るばかりです。
先日、一緒にDbDをやってくれている友人(通称デフレ)と一緒にあたしンちを見たら、川島のクリスマスの話で不覚にも泣いてしまいました。とても恥ずかしかったです